2013年03月02日

〈再録〉電子ブックトレンド講演会@徳島大学「『本棚の中のニッポン』:大学の研究・学習環境を”世界と日本”から考える」


電子ブックトレンド講演会「ディスプレイの中のニッポン:ライブラリーを通してつながる世界と日本」
日時:2012年12月20日(木) 16:30ごろから
場所:徳島大学附属図書館
URL: http://www.lib.tokushima-u.ac.jp/pub/ebook/index.html

演題:「『本棚の中のニッポン』:大学の研究・学習環境を”世界と日本”から考える」

・当日配付資料(web公開版)
 http://www.lib.tokushima-u.ac.jp/m-mag/files/096/ebook03.pdf
・講演会ビデオ
 http://www.lib.tokushima-u.ac.jp/pub/ebook/index.html
・「電子ブックトレンド講演会(その2)を開催しました」(メールマガジン「すだち」No.96)
 http://www.lib.tokushima-u.ac.jp/m-mag/back/096/96-2.html
・アンケート結果
 http://www.lib.tokushima-u.ac.jp/m-mag/files/096/ebook07.pdf

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【導入】

 私は、国際日本文化研究センター図書館の司書です。
 過去にハーバード大学イェンチン図書館で長期研修として滞在していた経験があります。また、海外の日本図書館とその周辺を調査し、その成果を『本棚の中のニッポン』という著書にまとめ出版しました。
 それを踏まえて、今日は、「『本棚の中のニッポン』:大学の研究・学習環境を”世界と日本”から考える」という題でお話しさせていただきます。

 (国際日本文化研究センターとは、については省略)
 (『本棚の中のニッポン』とは、については省略)
 (「海外の日本図書館」をとりまく世界、については省略)

 以上のようなことを踏まえ、今日の本題である「大学の研究・学習環境を”世界と日本”から考え」てみたいと思います。

スライド17.JPG

 3つのキーワードを用意しました。
 「場所」「人」「デジタル」です。

【「場所」】

 1つめの「場所」について、いま日本の大学図書館で話題となっている「ラーニング・コモンズ」について考えてみます。
 私がハーバードに滞在しアメリカ各地の大学図書館を見学してまわっていたころ、ちょうど、University of Massachusetts Amherst(マサチューセッツ大学アマースト校、以下 UMass Amherst)のラーニング・コモンズが成功をおさめ話題になっていました。

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 UMassのラーニング・コモンズは代表的な成功例として、日本でも当初から多く紹介されていました。私もその当時、実際にこのラーニング・コモンズを見学に訪れましたが、たくさんの学生たちが夜遅くまで滞在していて、パソコンを使ったり、テーブルやホワイトボードを囲んで話し合ったり、とても有効に活用され、大人気でした。確かにUMassのような大学の学習環境整備には効果的だったのだろうと思います。
 一方、私が滞在していたハーバード大学はどうだったかといいますと、このUMassが持っていたようなラーニング・コモンズはありませんでした。学部生用図書館は、24時間開いていたりカフェが併設されていたりと、長時間学習に対応はしていましたが、いわゆる”ラーニング・コモンズ”と呼べるものではありません。ハーバード大学と言えば名門校として世界的にも有名なはずですが、いまでも”ラーニング・コモンズ”と呼べる学習環境は整備されていないと思います。
 ですが、だからといって、UMass Amherstのほうが優れていて、ハーバードのほうが遅れている、ということではないと思います。なぜなら、両大学それぞれの周辺の環境や学生の生活が大きくちがうからです。現地を実際に訪れ、図書館だけでなく大学全体やキャンパスの周辺を見てみると、そのことがよくわかります。

 例えば、UMass Amherstは、
・学部学生が多い。
・学部学生の多くはキャンパス内の寮で生活している。
・学内での学生の居場所といえば、寮、庭、フードコート、大食堂、図書館くらい。
・キャンパスの周囲には広々とした原っぱ。
・学生たちは基本的に車やバスで移動する。
・キャンパスからバスで10分ほど離れたところに、Amherstの町のメインストリートがある。全長1キロ程度で、カフェやレストランが数軒あるが、たくさんの学生たちの居場所としての受け皿にはならなさそう。
 というようなところでした。
 このような場所だと、落ち着いて勉強するために長時間滞在できる場所は、寮の自室か、図書館くらいしかないのではないか、と思います。そのようなところに、長時間滞在を前提として設計されたラーニング・コモンズが設置されたわけですから、その成功は約束されていたようなものではないでしょうか。むしろ、それができる前はこの学生たちはどこにいたんだろう、と思います。
 一方、ハーバード大学の場合は、
・キャンパスはケンブリッジ市の中心街にあり、周囲にカフェや公共スペースが多数ある。
・図書・自転車で移動できる。
・大学院生が多い(研究室等があると思われる)
・学内にも共有スペースが多い。
 というところでした。
 ハーバードの学内のあちこちには、オープンな場所、例えば建物内のフロアやロビーの一角、広めの部屋などがあり、”共有スペース”として活用されていました。テーブルと椅子が並んでいたり、ソファが据えられていたりして、みな通りがかってはちょっと座っていったり、また去っていったりする。本を読んでいる人もいれば、軽食をとる人もいるし、友達としゃべったり、グループ学習に取り組んだりしている。たまたま先生が通りがかれば、論文の相談やディスカッションが始まったりもする。
 このような”居場所”がすでに学内に散在していて、有効に活用されている、キャンパス全体がゼミ室のようになっているところでは、確かに、”ラーニング・コモンズ”と呼ばれるような施設があらためて設置されていなくても、困ることはないのだろう、と思いました。

 このように、「場所」を考えるのであれば、図書館だけを見て、図書館にラーニング・コモンズがいるかいらないかだけを考えていても、あまり意味がないのではないかと思います。キャンパス全体、その周囲、学生たちの生活・学習環境をトータルで考えるべきでしょう。
 例えば京都大学は、キャンパス周辺にたくさんの喫茶店などがあり、下宿している学生が多く、自転車が主要な移動手段です。そのような大学には、そのような大学にふさわしい(または、不足しているところを補うような)学習環境の整備の仕方があるのではないかと思います。
 徳島大学についても、私は今日来たばかりなのでわからないのですが、やはりその大学に合った考え方というものがあるのではないでしょうか。

【「人」】

 2つめのキーワード「人」については、ライブラリアンが行なう研究・学習サポートについて考えます。

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 ガイダンスやオリエンテーション、文献探索の講座などは、日本の大学図書館でも積極的に行なわれているでしょう。ハーバード大学でも同様です。滞在中に、いくつかのガイダンスやオリエンテーションを見学させていただきました。
 中でも印象に残ったのは、新入の大学院生向けに行なわれていた新学期オリエンテーションでした。これは毎年行なわれているもののようでしたが、実際に行ってみると、いまみなさんがいるこの会場くらいの広さで、80人くらいの学生が参加。そして、学内のさまざまな専門分野を持つライブラリアンが、壁際に30人ほどずらりと立っています。一般的なオリエンテーションや文献探索法の解説、これは日本でもよく見かけるような標準的なものでしたが、それらがひととおり終わったあと、会の最後に列席したライブラリアンがひとりづつ自己紹介を始めました。自分の専門分野はこれである、どの図書館のどのオフィスにいる、今日はこういう配付資料を持ってきた、というようなことをめいめいにアピールします。
 オリエンテーション自体はこれで終了し、多くの学生は帰っていきましたが、一部の学生は室内に残り、先ほど自己紹介したライブラリアンたちのもとに自分から歩み寄っていって、じかに話をし始めます。学生たちは、自分の研究分野に関係するライブラリアン、自分の助けになってくれそうなライブラリアンを自ら見つけて、自己紹介や研究テーマの説明をしたり、アドバイスを求めたりします。ライブラリアンのほうもそれに応じ、データベースや配付資料の案内をしたり、自分のオフィスやレファレンスデスクに来るようにすすめたりしていました。

 図書館やそこにいるライブラリアンは、人的サービス、研究・学習サポートを行なうためにさまざまな準備や工夫をしています。ユーザがサービスを受けやすいように図書館側が態勢を整えることももちろん重要ですが、ただなんでもかんでもお膳立てして、与えるだけ、世話をするだけ、というサービスのあり方はいかがなものでしょう。やはりユーザである学生のみなさんも、自分が必要としているもの、手に入れるべきものは、自分で動いて積極的に取りに行く、探しに行く、ということが重要なのではないでしょうか。先のオリエンテーションでも、終了後に黙って帰っていった学生たちと、残って自分からライブラリアンに自己紹介しに行った人たちとでは、かなり大きな差があるのではないかと思います。

【「デジタル」】

 最後に、3つめの「デジタル」としてe-resource、電子ジャーナルや電子書籍、データベースなどの利用環境について考えます。

 ここで紹介するのは2007年当時、私がハーバードに滞在していたときに見聞きした、アメリカの大学図書館におけるe-resourceやデジタルシステムによる利用環境の整備の様子です。5年前のものですが、現在でも日本ではまだ実現できていないような利用環境が多いと思います。

 ・人文系でも、e-resource(電子ジャーナル・電子書籍・データベース)をふんだんに使う。全文がオンラインで入手できて当然。
 ・電子書籍の“貸出”や端末の貸出サービス。
 ・講義で必読の文献は、図書館が電子版を購入する。電子版がなければ、図書館が権利者と交渉し、許諾を得て、図書館自ら電子化してサーバにあげる。
 ・論文データベースを検索して、必要な論文が電子ジャーナルになっていなければ、その場で文献複写をオンライン・オーダーできる。(その文献の所在が、学内か学外か国外は問わない。)
 ・オンライン・オーダーした論文のコピーは、メールの添付ファイル、専用サーバからのダウンロード等で受けとる。
 ・複数の大学でグループを組んでドキュメント・デリバリーの態勢を整え、提携校の利用者からのオンライン・オーダーを直接受けとる。

 このような、e-resourceが充分に提供され、デジタルシステムによる利用環境が整ったアメリカの大学図書館の中で、残念なことに「日本語のe-resource」だけが極端に少なく、整備されていない、という現実があります。

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 このグラフは、北米の東アジア図書館(中・日・韓)における図書・電子書籍・電子ジャーナルの所蔵数です。(2010年、CEAL統計から作成。)
 紙の図書については日本語の所蔵数もかなり多いのですが、電子書籍・電子ジャーナルの契約タイトル数になると、極端に少なく、ほぼ見えなくなってしまっていると言ってもいいほどです。
 これは決して、買おうとしていないから少ないわけではありません。そもそも日本語e-resourceはその数が少ないので、買えません。それだけでなく、使い勝手が不便で、値段も高く、コンソーシアム契約等も認められないことが多いようです。また、海外のライブラリアンが日本の出版者・データベース提供業者と交渉を試みても、海外とは契約できない、契約しようとしないこともあったようです。

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 そしてこれらの問題、数が少ない、使い勝手が不便、値段が高い、といったことは、すべて我々日本側のユーザ・図書館にとっても大きな問題であるはずです。
 こういった問題を解決するためには、そもそもの当事者である我々、日本のユーザこそが、要望の声を大きく上げる必要があるのではないかと思います。「人文系だから仕方ない」とか「著作権が」とかだけであきらめるのではなく、必要なものは必要と言うべきだと思います。

【まとめ】

 以上、3つのキーワード、「場所」「人」「デジタル」から、大学の研究・学習環境を考えてみました。いままでお話ししてきたエピソードをふまえ、”まとめ”として以下の2つのことをご提案したいと思います。

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 1つめは、「要望」。ほしい物を「ほしい」と言う・動く、ということです。
 例えば、e-resourceが足りていない、デジタルシステムによる利用環境が整備されていない、そのためにこういうことで困っている、こういうふうにしてほしい、そういったことについて要望の声を上げる、ということ。
 また、声を上げるだけでなく、具体的に自分自身で動いて獲得しに行くということ。ハーバードのオリエンテーションの話で紹介した学生たちのように、必要なもの、入手しなければならない情報があるのなら、与えられ整備されるのを待つだけではなくて、自ら積極的に近づいていくこと。
 必要な物は必要、ほしい物はほしいと言い、自らも動くことが重要ではないかと思います。

 2つめは、「全体設計」。問題をとりまく世界全体を考える、ということです。
 図書館の問題やトピックを考えるのに、図書館だけを見ていても、大学のことだけを考えていても、有効な解決にはならないのではないかと思います。ラーニング・コモンズの件で考えたように、ラーニング・コモンズを持つべきか否か、どう作るべきかなどは、図書館の中だけの問題ではない。大学全体のスペースの有無や使われ方の実態、学生たちの学習や生活のスタイル、キャンパス周辺の街・土地柄との関係の中で、全体の問題として考える必要があるのではないか、ということ。
 またe-resourceの問題も、単にいまここで目の前にあるひとつの資料が電子化されているかどうか、いまほしい電子書籍が手に入るかどうか、が問題なのではなくて、研究活動・学習活動全体の流れの中でどのような利用環境が整備されるべきか、ということ。さらには、日本製e-resourceの利用は日本のユーザの問題だけではない。海外の日本図書館をとりまく世界の中に置いて考えてみれば、日本が自分自身を世界にどのようにアピールし、存在感を示していけるか、という問題にもつながっていくということ。

 まとめとして挙げた2点・「要望」「全体設計」は、どちらも実に抽象的な、今日のテーマにはそぐわないものかもしれません。
 ですが、現時点で注目されている重要なトピック、例えばラーニング・コモンズや電子書籍などの問題を具体的に考え、解決したとしても、それ”だけ”ですべてが、大学の研究・学習環境のあらゆる問題が解決できるわけではありません。これから数年後・10数年後には、ラーニング・コモンズや電子書籍にかわる新しい問題・トピック=「次の”何か”」がまた持ち上がってくるでしょう。そしてその「次の”何か”」の”種”は、おそらくいま現在どこかに存在しているのでしょう。
 大学の研究・学習環境の整備は、いま現在だけの問題ではなく、これからも継続的に取り組まれていかなければならない問題ですし、今後も新しい問題・トピックが生まれつづけていくことでしょう。その中にあっておさえておくべき重要なポイント、それが、まとめとして挙げた「要望」「全体設計」の2点ではないか。そのように考えています。

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