2012年09月29日

〈再録〉大図研全国@京都「『本棚の中のニッポン』で伝えきれなかったいくつかのこと--日本資料と海外の大学・研究図書館--」


大学図書館問題研究会全国大会@京都
「『本棚の中のニッポン』で伝えきれなかったいくつかのこと--日本資料と海外の大学・研究図書館--」
日時: 2012年8月4日(土) 14:00ごろから
場所: コミュニティ嵯峨野
URL: https://sites.google.com/site/dtk2012kyoto/home/program
・egamiday3「プレゼンの記録と反省 或いは メモ:大図研@京都2012・その1」
 http://egamiday3.seesaa.net/article/285493491.html
・Togetter「#本棚の中のニッポン で伝えきれなかったいくつかのこと 大図研京都 #dtk43 (2012.8.4)」
 http://togetter.com/li/351793

当日powerpoint(web公開版)
 
 まず、問題です。
 「Q.わたしたちは、いま世界の”どこ”に立っているでしょうか?」
 答えは30分後に。

 今日は「『本棚の中のニッポン』で伝えきれなかったいくつかのこと --日本資料と海外の大学・研究図書館--」というタイトルでお話しします。
 『本棚の中のニッポン』というのはどういう本か。帯には「日本人の知らない「海外の日本図書館」。それはどういうところで、いま、何が必要とされているのか」という文句が記されています。すなわち、海外で日本のことを研究している研究者や学生が、どのように研究し、またどのようなニーズを持っているか。そしてその人たちをサポートする海外の日本図書館は、どのような活動を行ない、どのような課題を持っているか。そういったことを現地取材や文献によって調べ、紹介したものです。

 では、そもそも「海外の日本図書館」というのはどういう存在なのか。「海外の日本図書館」をとりまく世界についてざっくりと説明します。
 海外、世界各国に、日本のことについて興味を持ち、あるいは必要があって日本のことを知りたい、調べたいという人たちがいます。大学の研究者・専門家、学生・院生、その他文化人やジャーナリストや一般の人たちです。そういう人たちが、論文・本・インターネットなどのかたちでさまざまに日本についてアウトプットしてくれることによって、日本の存在・魅力というものが広く世界にアピールされていきます。その研究者や学生などの人たちが日本についての書かれた資料や日本情報を手に入れるのをサポートするのが、各国の日本図書館です。日本図書館は、日本資料を持ち、流通させ、また日本情報を提供します。
 ではその海外の日本図書館の日本資料はどこからもたらされるのかというと、日本から、ということになります。日本の出版社、大学などで日本資料・日本情報がうまれる、世に出される。あるいは日本の図書館に所蔵される。その日本と海外との間に”橋のようなものがかかっているとして、その橋を通って日本資料・日本情報が海外に渡っていきます。ということは、最終的なゴールとして「日本の存在・魅力が世界にアピールされる」ことのもとをたどっていくと、日本・海外の間の橋を通って日本資料・日本情報がいかにスムーズに、障壁なく渡っていくか、そのことが重要になってくるわけです。

 しかし実際にはこの”橋”を渡りにくくするさまざまな障壁が存在します。「距離が遠い」「言語環境が違う」「商習慣が違う」「資料・情報が不足している」「マイナーで肩身が狭い」「ただでさえ日本側が鎖国気質である」、などなどです。図書館員であるみなさんはもうお気づきかと思いますが、これは要するに”アウトリーチ”の話です。私自身も1年間のアメリカ暮らしで経験しましたが、「国を越える」というだけでもユーザにはムダな時間・コスト・ストレスがかかるものです。
 その解決、そしてユーザのサポートのために、みなさんからの広くたくさんの”援軍”を必要としています。確かに、例えば国際日本文化研究センターや国際交流基金・国際文化会館・国立国会図書館などのような、海外の日本研究・日本図書館をサポートしている機関は一部にあります。ありますが、その一部の活動だけでは、海外からの幅広いニーズ・リクエストに対応することはできませんし、まかないきれません。「日本」というキーワードで、伝統的な人文学分野の研究だけでなく、政治・法律やビジネス・経済・産業、医学などの自然科学、映画やアニメ・漫画などのポップカルチャーなど、研究分野は広くひろがっています。地方にしかない一点物の資料や文書資料などが求められることもあります。日本国内のユーザと同じく、大学図書館、公共図書館、出版社、官公庁・自治体など、さまざまな分野・業種の方の、ちょっとでもいいので幅広いご理解とご協力が必要です。
 そして先ほどご説明したように、そのような援軍が得られるか得られないか、”橋”が通りやすいかどうかによって、最終的なゴールである「日本の存在・魅力が世界にアピールされる」かどうかが左右されることになります。つまりこれはほかでもない、我々日本側自身が最終的に損をするのか得をするのか、という問題になるということです。

 では、具体的にどうしたらいいか、ということをいくつかのトピックにわけでご紹介します。

 1つめは「e-resource」です。
 海外の日本研究における現在のひとつの大きな問題は、「”日本離れ”がとまらない」ということです。Google Books Ngram Viewerというサービスで、英語の書籍本文中にどれだけ頻繁に「Japan」が登場するかをグラフにすると、2000年以降2008年(最近)までで、そのグラフが極端に下降していることがわかります。ほぼ1930年代と同じレベルです。実際、近年の海外の日本研究における”退潮傾向”が、学科の閉鎖統合など、さまざまなかたちであらわれてきています。
 これとシンクロするかのように起きているもうひとつの問題が、「深刻なデジタル不足」です。いまや人文系分野の研究であっても、e-resourceは研究・学習に不可欠な者です。しかし、例えば北米における主な東アジア図書館の統計を表・グラフにしてみると、中国語・韓国語のe-resourceの所蔵・契約数と比較して、日本語e-resourceの所蔵・契約数の極端に少ないことがわかります。e-resourceでなければ積極的な資料購入をしないという傾向になりつつある中で、海外の日本図書館は、日本製e-resourceの数の少なさ、不便さ、高額な値段、厳しい条件などに悩まされています。
 しかしそもそも、日本製のデータベース・電子ジャーナル・電子書籍について、絶対数が少ない、利用が不便である、値段が高いし契約しづらい、条件も厳しい。うっかり慣れっこになってしまいがちですが、こういったことはすべて、我々日本の図書館員こそが日々痛感していることですし、日本の研究者・学生などのユーザにこそ悪影響が及んでいることのはずだと思います。ですので、こういった日本製e-resourceの問題に対しては、我々日本の図書館・図書館員こそが、こうしてほしい、こうあるべき、こうしようという要望・主張の声を大きく上げるべきではないかと思います。こういった声は、母数が小さい海外からでは届きにくいでしょうから、我々が当事者として上げるべきでしょう。
 ただ、そのためのひとつの課題として、そういった要望・主張・交渉を行なおうとするにあたって有力な窓口となりうるような専門家の集団・コミュニティが日本にはないのではないか。その解決が必要なのかもしれません。

 2つめは「研修」です。
 まず、海外の日本ライブラリアン・専門家に対する研修について。海外の日本研究ライブラリアンや日本専門家を、日本に招き、情報や資料についての研修を行なうという事業があります。日本専門家ワークショップ(国立国会図書館・国際交流基金・国際文化会館)、天理古典籍ワークショップ、などです。このような研修やワークショップ、シンポジウムなどは、海外の日本専門家らに日本のことを伝えるというだけでなく、日本の我々が海外の専門家たちと交流・情報交換し、先方のニーズを把握し、人的ネットワークを形成していく絶好の機会でもあります。実際、私自身、最初に海外の日本研究やそのライブラリアンの存在をはっきりと知るようになったのは、日本専門家ワークショップ(の前身)の一環である図書館見学の対応をしたのがきっかけでした。ですので、こうした研修事業に協力・寄与できる機会が訪れた際には、ぜひ積極的にお願いしたいと思います。
 次に、今度は逆に、日本から図書館員が海外に行く研修について。この種の研修の場合、多くが相手国・相手館について調査し情報を得て、自身の勉強としたり国内に報告したりということが主目的になりがちで、ともすれば訪問先で質問するだけ・調べるだけ、自分たちが情報入手するだけ、ということになってしまいがちです。しかしそれでは日本側が一方的にテイクするだけであり、相手側には何も得るものがなく、不公平と不満を持たれてしまうこともあります。そういったことのないように、できるだけこの種の海外研修においては”発信””参画”型へアップグレードしていくことが必要ではないかと思います。会議・プロジェクトに参加(Participatory)し、発表(Output)し、その活動に寄与するといったことです。

 3つめに「日本専門家デビュー」を挙げました。もし、今回のプレゼン全体を通してひとつだけみなさんに覚えて帰っていただきたいことがあるとするなら、この件だと思います。
 ここにいるほとんどのみなさんが、日本人で、日本に住み、日本語を話し、日本の図書館や職場で働き、生活をしていると思います。それだけですでに、我々は日本についての”専門家”です。海外のユーザに、日本から伝えられること、教えられること、アピールできることを、もうすでにたくさん持っています。あとは、デビューするだけです。いまや、それらをカンタンに発信するツールはweb上にたくさんあります。自分の専門分野でも趣味でも地域の情報でも、どんなことにも可能性はあると思います。ぜひデビューしてみてください。

 最後、4つめは「ILL」です。これが実はもっとも現実的かつ直接的なお願いになります。端的に言えば、海外からのILL受付にはぜひ柔軟かつ積極的な対応をお願いしますということです。NACSIS-ILLで海外からのILLを受け付けるGIFのシステムがありますが、日米間のILL受付件数について2004年と2010年を比較すると、一見順調に増加しているように見えますが、実は相当数の謝絶がある、そして日本から海外への依頼件数に比べれば極端に少ない、というのが現状です。こういった障壁や不均衡を解決するためにも、海外からのILL受付は、GIF・OCLC経由じゃなく飛び込みの依頼であっても、ぜひ柔軟な対応をお願いします。「NO! 鎖国 YES! ホスピタリティ」でお願いします。
 とはいえ、そういうことを実践しようとすると、海外ILL受付の事例共有・ケーススタディが足りていないのではないか、というのが問題になります。そこで、そういった海外ILL受付の情報を共有するためのグループを作りませんか、という提案をしたいと思います。興味のある方はぜひご連絡ください。
 そして最後に、「GIFの仕組みはあのまま続けていけるのか?」「OCLCに直接加入するとか、代表・代理が加入するとか、いい方法はないものか?」ということをつぶやいてみたいと思います。

 最後に、答え合わせです。
 「Q.わたしたちは、いま世界の”どこ”に立っているでしょうか?」
 我々は、日本と世界との間にかかる”橋”の上に立っています。日本資料・日本情報の流通をいかに障壁なくスムーズにさせられるか、考えてみていただければと思います。

【関連する記事】
posted by jbsblog at 11:39| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。