2012年09月25日

〈再録〉日文研・木曜セミナー「図書館の"はたらき"は国を越えて届くか --『本棚の中のニッポン』から--」

第190回 日文研・木曜セミナー
「図書館の"はたらき"は国を越えて届くか --『本棚の中のニッポン』から--」
日時: 2012年9月20日(木) 16:30〜
場所: 国際日本文化研究センター 第1セミナー室
URL: http://www.nichibun.ac.jp/event/archive/mokuyou.html

当日配付資料(web公開版)
当日powerpoint(web公開版)

 『本棚の中のニッポン』という本を出版しました。この本では、海外の日本研究者や学生がどのようなに研究し、またどのようなニーズを持っているか、そしてその人たちをサポートする海外の日本図書館は、どのような活動を行ない、どのような課題を持っているか、などを取材・調査によって紹介しています。
 今回のプレゼンでは、本書に寄せて、「図書館はどんな機能・活動を持っているか」「図書館の機能・活動は国を越えてどうはたらいているか(特に海外の日本研究図書館において)」について紹介します。

 まず、図書館はどんな機能を持つか、どんな活動をしているか、についての全般的な話です。
 教科書的に言えば、図書館の機能は「資料の収集・整理・提供・保存」といったことが言えると思います。しかしこれでは事務的すぎるので、もっとわかりやすく言うと、「図書館学の5原則」というものがあります。インドの図書館学者・ランガナタンが提唱したもので、5つあるうちの2番目に「Every reader, His (or her) book.」という文句があります。これがもっとも端的かつ重要なことですが、図書館は「あらゆる人に、その人が求める本を確実に届ける」というはたらきを持っています。
 そしてこれをまっとうするために重要なのが、図書館同士の”横のつながり”です。図書館はこの”横のつながり”なしに成り立ちません。

 ”横のつながり”のひとつめの例としてわかりやすいのが「ILL」です。ILLはInter Library Loanの略で、図書を貸し借りする相互貸借とコピーをやりとりする文献複写とがあります。日文研はユーザ数が多いわけではありませんが、取り組まれている分野が人文・社会・自然科学までとても幅広いため、自館の蔵書だけではまかなうことができず、ILLが必要となります。
 「ILL」がどのように行なわれているかについては大きく3つにわけられます。ひとつは大規模な仕組みによるもの。例えばNACSIS-ILLは日本のほとんどの大学・研究図書館が参加する大規模なILLの仕組みで、高度にシステム化され、大量の依頼・受付を迅速に処理することができますし、支払も相殺制度でスムーズに行なうなど効率化されています。
 またそこまで大規模ではなくとも、国立国会図書館や国立公文書館のように広く多くの利用者・図書館からILLを受け付けることを前提としているところでは、その業務を定型化しています。決まった書式、決まった手順、決まった支払方法などのルーチンワークにより、スムーズな処理ができます。
 それらのような仕組みを持たないところ、例えば地方の小規模な図書館・資料館や博物館・文庫・寺社などで、決まったILLの手順などがないところについては、毎回・個別に交渉することになります。メール・FAX・電話・郵便などでやりとりし、理解を求め、先方の意向・指示にしたがいますが、しかしそれでも謝絶されるということも少なくありません。

 ”横のつながり”の2つめの例が「目録」です。先ほどのILLが可能になるためには、多くの図書館の所蔵についてのデータが集まったデータベースが公開されている必要があります。このような「総合目録データベース」の構築も、図書館同士の連携・協力によるものです。NACSIS-CATやその公開版であるCiNii Booksはこれによって利用可能になっています。
 また図書館が目録データベースを作るのに、すべて自力で作成・入力しようとすると効率が悪く作業も遅くなってしまいますので、コピーカタロギングが不可欠になります。コピーカタロギングを可能にしているのが、たくさんの書誌データを提供する書誌ユーティリティや総合目録データベースであり、これらも図書館同士の連携・協力のあり方のひとつです。

 ”横のつながり”の3つめは「人的交流・人的支援」です。ILLや目録はじめ、図書館の横のつながりには標準化・統一化や情報・問題意識の共有が不可欠です。そのため、コミュニティの構築や研修・研究会の開催、ライブラリアン同士の交流・連携などが重要になります。

 では、こういった図書館の機能・活動は国を越えて、特に海外の日本研究図書館においてどうはたらいているでしょうか。
 海外の日本図書館にとってもやはり、横のつながりは重要です。特に、海外では日本研究は学問全体の中での主流では決してなく、図書館・蔵書の規模も小規模なところがほとんどです。ハーバードのように日本語資料を30万冊以上持っているところはごく一部で、ほとんどのところが数万・数千冊という規模です。しかも日本について人文系も社会系もあらゆる分野が研究対象になるという、ニーズの幅広さの問題がここにもあります。こういった小規模な図書館にとって”横のつながり”は不可欠な生命線です。先ほど紹介した「ILL」「目録」「人的交流・人的支援」を例に、海外の日本図書館の”横のつながり”を概観してみます。

 海外の大規模なILLの仕組みのひとつに「OCLC」があります。北米を中心とした全世界対象の図書館ネットワークで、北米はほとんどの図書館が、それ以外の地域でも多くの図書館が参加しています。このOCLCのILLの仕組みを使えば北米内のILLであればスムーズに処理されます。しかし、日本に対してこのOCLCの仕組みを使ってILLを依頼することは困難です。OCLCに日本から参加している図書館はごくわずかです。また、NACSIS-ILLとOCLCをリンクさせてILLをやりとりするGIFという仕組みがありますが、参加館が限られていたり、手続きが煩雑だったり、日本側の謝絶が多かったりして、その実績は多いとは言えません。
 では海外の図書館から日本の図書館へのILL依頼は実際どう行なわれているでしょうか。良い評判を多く聞くのが早稲田大学です。本書でも取材で取り上げていますが、早稲田大学はOCLCに直接加入し、またそれ以前から海外の図書館と提携してILL受付・依頼を行なうなど、積極的に海外とのILLを行なっています。海外の日本研究のライブラリアン・研究者・学生からの早稲田への賞賛・感謝のコメントは非常に頻繁に耳にします。それから国立国会図書館も文献複写や図書館への図書貸出を受け付けています。そして早稲田・国会以外のILLについてはどうかというと、そのほとんどが先ほど説明した個別に交渉するパターンとなります。そして、個別に交渉しても謝絶されることが多いのが現状です。実際に私も、海外のライブラリアンの方から「日本へのILL依頼は絶望的だ」と言われたことがあります。

 次に「目録」について紹介します。例えば、北米の日本研究図書館の多くはOCLCの総合目録データベースに参加し、日本語書誌・目録データを扱っています。また欧州ではイギリスやドイツ・北欧などが日本のNACSIS-CATに参加してそのデータを利用しています。
 海外の日本研究図書館にとって長く課題だったのは、海外の目録システムでCJK文字データをどのように扱うか、ということでした。これはいまはおおむね解決できていると言っていいと思います。しかしシステム上で文字データが扱えても、「コピーカタロギングができるか」という課題は残ります。小規模な海外の日本研究図書館にとって、コピーカタロギングによる業務の省力化は極めて重要です。そしてコピーカタロギングができるためには、利用する書誌ユーティリティや総合目録データベースに日本語書誌データが数量的にふんだんに収録されている必要があります。ですが、OCLCなどの海外の書誌ユーティリティ・総合目録データベースには何もしなければ日本語書誌データは自然に入ってはくれません。日本語のわかるライブラリアンが少量づつ増やしていくことにも限界があります。その課題を解決するため、日本からOCLCへの書誌データの提供が行なわれてきました。1995年から早稲田大学が、2008年から図書館流通センターが提供し、そして2010年からの国立国会図書館の提供によって、OCLCにおける日本語書誌データの件数は2倍以上になりました。

 これらILLや目録など、さまざまな問題を解決してきたのが「人的交流」の基盤とも言える「コミュニティ」です。海外の日本研究ライブラリアンによる主要なコミュニティを3つ紹介します。
 CEAL(Council on East Asian Libraries)は北米の東アジア図書館(中韓含む)・ライブラリアンによるグループです。AASの下部組織で毎年3-4月に総会があります。いくつかの委員会がありますが、JMC(Japanese Materils Committee)では日本資料について取り扱っています。
 これとは別に、北米の日本研究(のみ)ライブラリアンらによるコミュニティ・NCC(North American Coordinating Council on Japanese Library Resources)があります。高額資料の共同購入・調整や、ILLの促進、日本製データベースなどe-resourceの契約交渉などをおこなっています。CEALと同じく3-4月頃に総会があります。
 ヨーロッパにはEAJRS (European Association of Japanese Resource Specialists)があります。NACSIS-CATプロジェクトが行なわれたり、またこの集まりをベースにe-resourceの契約交渉が行なわれたりしています。ライブラリアンだけでなく研究者も参加・協働しています。ヨーロッパの大学図書館には日本専門のライブラリアンがいないことも多く、研究者・教員が事実上の蔵書のマネジメントを行なっている例もあります。
 このようなコミュニティを構築することの利点のひとつは、日本専門のライブラリアンがいない大学にも、サービスや効果を届けることができるという点です。北米にしろ欧米にしろ、すべての大学の図書館に日本専門のライブラリアンがいるわけではありません。国や複数地域をカバーするようなコミュニティが構築されることによって、そのコミュニティの活動によるサービスやシステム、運営上の効果などが、日本専門のライブラリアンがいない大学の図書館・蔵書、また研究者・学生にも届けられます。 もうひとつの利点は、力を集約して交渉にあたったり、窓口を一本化したりすることができるという点です。例えば、日本製データベースなどのe-resourceは海外の日本図書館で契約できないことが多く、同じ東アジアの中国・韓国に大きく遅れをとっています。高額であることや、過去には日本側から契約が敬遠されがちだったことなどの理由がありました。その解決のための交渉は、個々でやるよりも力を集約したほうが効果的ですし、窓口も一本化した方が効率的です。

 人的交流・人的支援の代表的なものに「研修事業」があります。ここでは日本の機関が企画・開催しているものを2つ紹介します。
 「日本専門家ワークショップ」は名前を変えて10年以上続いているものです。国立国会図書館・国際文化会館・国際交流基金の共催で、日本にライブラリアン(現在は研究者等を含む)を招き、2-3週間滞在してもらって、図書館・日本情報に関する研修を行ないます。
 「天理古典籍ワークショップ」は天理大学が行なうもので、3年連続プログラムの2回目が始まろうとしています。日本研究ライブラリアンが2週間天理大学に滞在し、古典籍の基礎知識・取り扱いについて学びます。
 こういった研修の効果は、もちろん講義内容そのものについてもそうですが、加えて、それまで遠いところに散らばっていたライブラリアン同士が集まり、顔見知りになり、そして帰国後もその関係が続いて日常業務のさまざまな場面で助け合い・協力が可能になる、という点にあると思います。交流が増えたおかげでILLがやりやすくなったという声も聞きます。そしてこのことは、日本と海外とのライブラリアン同士の関係についてもまた同じことが言えるはずだと思います。

 最後に、これらの活動・現状と日文研図書館との関わりについて。外部・他機関との関わり、連携・協力活動、国際貢献について考えたいと思います。今回の話に寄せるならば、海外の日本図書館・ライブラリアン・コミュニティとの関わり、国内の専門図書館(国際交流基金・国際文化会館など)との関わり、など。資料・サービス・人的貢献から考えると、資料の周知、蔵書の強化、ILLの強化、CEAL・NCC・EAJRSや研修事業への関与・貢献、など。
 最終的には日文研図書館を、海外で日本を研究する人が最初に思い浮かべる日本の図書館、にできたらと考えています。
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posted by jbsblog at 12:44| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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