2012年05月24日

どんな読み手を想定しながら書いたか、という話


 1冊の著書という、いままで経験したことのないサイズ・形式の執筆ごとをやろう、というのにあたって、自分の中でいかに書きやすい、筆の進む環境を整えようか、というのがひとつの結構重要なポイントだったように思うのですが、今回は、「この人に向けて、書こう、語ろう、説明しよう」という具体的な”想定の読み手”というのを念頭に置いて書きすすめる、ということをやってみました。そうすれば、ぼんやりとしたつかみどころのない相手に向けて書く、よりは、かなりぐっと筆が進むようになるんじゃないか、という考え方です。

 本書の執筆にあたって、主に念頭に置いていた”想定の読み手”は3人です。
 (注:その3人以外のことは考えなかった、というわけではもちろんありません。)

 ひとりは某大の図書館員で、入って2-3年目くらいの後輩の人。図書館実務の経験は一応あるし、基本的な図書館知識・図書館用語はわかってくれるだろうけれども、海外の図書館事情などにまで詳しいわけではたぶんないし、日本のことだって知らないことも多いだろうから、ちょっと踏み込んだことには丁寧に説明しないといけない。好奇心旺盛、勉強熱心な相手なので、ごまかしや手抜きはできない以前に、こちらとしてもしたくない。もし「もっと知りたい」と言われたら、こういうのを読んでみたらいいよ、という案内をしてあげたい。といって受け身で聞くだけではなく、的を射たコメントや発言を臆せずに聞かせてくれるので、こう質問されたらこう補足しないとな、という想定がしやすい。
 後輩に、教えたい、伝えたい。そのために、わかりにくさとか、長くてくどいとか、退屈だと思わせるところのないように。それができているだろうかという目安としての、想定の読み手。

 もうひとりは新進気鋭の若き図書館学研究者の人。多才なキレ者で、こっちがちょっとでも曖昧でいい加減なことを言おうものなら、容赦なくつっこみ叩いてくれそうな人。なので、細かいところもきちんと説明できるように、自信のない箇所はあらためて調べ直しておかないと、なんとなく書いてしまいました、では通用しない。○○とはどういう意味なのか。こう書いてあるけど、この考え方はおかしくないか。加えてこの方は、先ほどの後輩の図書館員とは違って”実務”まわりの経験があるわけではないので、実務者なら当然のような事情や概念であっても、それを自明かのようにすっとばしてしまわないよう、読者に向けてちゃんと説明を加えないといけない。
 それからもうひとつは、研究者という立場では知り得ない、あるいはふだん接しないであろう種類の情報・知見をお見せして、いかに喜んでもらえるか、という心構え。自分は研究者ではないし、この本を研究書として書くことはたぶんできないし、するつもりもない。研究者の人が書く研究書とどこでどう”差”をつけていくか、というのは取り組み前にわりとじっくり考えた課題だったのですが、読み手に、興味は持ってくれるだろうけど実務者ではない研究者、を想定することによって、いかにその人の手持ちカードになさそうな話題をひねりだせるか、ということを意識しつつ。

 そしていまひとりは、世に言う”最初の読者”たる編集者の人。図書館関係者じゃない。大学関係者でもない。そして、この本は大学関係者・図書館関係者に限って書いているわけではそもそもない。でも自分自身、図書館業界にどっぷり漬かってしまって「OPAC」「請求記号」なんて言葉を呼吸するように使ってしまっているわけなので、そういったことのないように、なぜILLというものがあるのか、なぜ目録が必要なのか、検索できる/できないとはどういうことなのか、そういうことから、無精せずに、あきらめずに、説明する。その監視役としての、読み手。

 というような3人の方を想定して、たとえば用語の選択に迷ったとき、この説明は加えるべきか省くべきか判断するとき、何に紙面を割いて何には割かないのかをプランニングするとき、といった折々で、顔色とご機嫌をうかがい、ときに叱られながら(叱られてたw)、どうにかこうにか筆を進めることができたのでした。

 (注:3人のキャラクターはフィクションであり、実在の人物とは、っていうことにしておきましょうよねw)


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posted by jbsblog at 21:55| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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