2014年07月29日

第11章第3節「国際文化会館」


 『本棚の中のニッポン:海外の日本図書館と日本研究』(2012) 第11章第3節「国際文化会館」の本文をここに載せておきます。
 本文中に「約26000冊の蔵書を持ち、図書の9割以上が英語」とありますが、2010年の統計では、年間購入約200冊・寄贈600冊、年間利用者約1万人中4割が外国人、というメモが手元にあります。


3 国際文化会館

●国際文化会館と図書室

 国際文化会館(International House of Japan : i-House)は、日本と海外との文化交流を推進する非営利の財団法人です。1952年、ロックフェラー財団やその他の国内・海外の団体・個人からの支援により設立されました。東京・六本木に会館を構え、「日本と世界の人々の文化交流・知的協力を通じ、相互理解をはかること」を目的としています。海外からの研究者・文化人・企業人などの招聘・派遣、講演会・セミナー・国際会議など、国際的な人的交流・知的交流を主としたプログラム・事業を行なっています。
 例えばアジア・リーダーシップ・フェロー・プログラムは、アジアから各分野の専門家を招聘し、ワークショップなどを通して人的ネットワークの形成をはかる、というものです。また出版事業も行なっており、日本の政治・経済・文化などについての日本語の著作を英訳・刊行するなどして、海外での普及に寄与しています。
 
 会館の1階に、1953年に創設された日本研究専門の図書室が設置されています。主に海外からの日本研究者や専門家を中心に、資料・情報及びサービスを提供し、日本と海外との知的協力に寄与することを目的としています。
 この図書室で初代のライブラリアンを勤めたのは、福田なおみ氏でした。福田氏はミシガン大学で図書館学修士号(Master of Library Science : MLS)を取得しており、またアメリカ議会図書館でも勤務していました。日本に帰国後、国立国会図書館が創設される際に、日米間の橋渡し的な役割をしています。1953年、国際文化会館に図書室が設置されるにあたって、その準備のために会館に招かれました。福田氏は、当時まだ日本では珍しかった開架式書架、レファレンス・サービスやレフェラル・サービス(依頼者のために他の図書館・情報機関を紹介し利用の手配をする)など、アメリカ式の図書館サービスを実施しています。またこのような“ユーザのためのサービス”を戦後まもない日本の図書館に普及させ、啓発や人材育成を行なうという活動を行なった人でもありました。1959年に見学旅行が実施されたアメリカ図書館研究調査団の活動(註:『アメリカの図書館』. アメリカ図書館研究調査団. 1960.)も、そのひとつです。そのほか、福田氏のイニシアチブのもと『日本の参考図書』の初版が1962年に編纂・出版されています(註:『日本の参考図書』は現在でも日本図書館協会によって編纂が継続されている。)。
 この『日本の参考図書』をはじめ、多くのレファレンス・ツールや書誌などの出版物がこの図書室から出されています。例えば『A guide to reference books for Japanese studies』(日本研究のための参考図書)は日本に関する情報源を収録し、英文解題も加えたものです。人文・社会系に加え、科学技術分野の情報も収録されています。また、日本について書かれた英語や西洋言語の図書にしぼった書誌・総合目録も作成されています。1967年の『Union Catalog of Books on Japan in Western Languages』は、国立国会図書館、国際文化振興会図書館(のちの国際交流基金)、東洋文庫、そして国際文化会館が所蔵する図書の総合目録です。また、1984年の『Books on Japan in English : Joint holding list of ICU Library and IHJ Library』はICUとの総合目録でした。こういった冊子体の総合目録は、複数の図書館同士で何があるか、何がないかを互いに確認し、相手から借り出したり(ILL)、重複購入を避けるなど、中小規模図書室の効率的な運営とサービスには欠かせないものです。なお、現在では国際文化会館図書室はNACSIS-CATの総合目録に参加しています。

●“窓口”と“つながり”の場

 現在、約26000冊の蔵書を持ち、図書の9割以上が英語だとのことです。日本に関する英文の学術出版物、国際関係・東アジアに関する資料や、日本政府の刊行物などがそろえられています。社会・経済・国際関係・政治分野や芸術分野が多いようです。また雑誌約500タイトルに加え、新聞、電子ジャーナル、『日経テレコン21』や『Bibliography of Asian Studies』などのデータベースも提供されています。

 図書室の利用については会館の正会員による利用に加え、図書会員制度が設けられています。図書室利用のみを希望する研究者や大学院生などを対象としたもので、正会員よりも割安の年会費で資料とサービスを利用できます。また、この会館内のホテルに宿泊した宿泊客もサービス対象者として利用が可能です。
 会員として受けられるサービスとしてメリットが大きいと思われるのが、日本国内の図書館からの資料の取り寄せ(ILL)や、他の図書館への紹介状発行、ではないでしょうか。長期・中期に滞在している会員が、日本国内のどこか別の図書館で資料を参照したり文献調査したりという必要がある場合、わざわざ自国の大学図書館を通すことなく、この図書室に手配を頼むことができます。実際にこの図書室をユーザとして利用していた方のお話では、この会館と図書室を拠点・ベースとし、その紹介状を持って、国内のあちこちの図書館に調査に行くことができた、とのことでした。このような日本の図書館への“窓口”的なサービスは、帰国した会員からも頼りにされているようです。古書を探している、この分野の専門家を探している、など、帰国した会員からのレファレンス質問や資料相談も多く、情報を提供したり、レフェラル・サービス、すなわち、日本の他の図書館・機関への橋渡しを手配したりということが多いそうです。

 先のユーザの方からは、この会館に宿泊し図書室を利用していると、思わぬ人に出会って交流できたり偶然知人と再会したりということがあり、だからこそ利用したくなる、という声も聞きました。実際、この図書室には、国内外の研究者、ビジネスマン、ジャーナリスト、芸術家、政府・外交関係者など、さまざまな方が訪れます。閲覧室を研究・執筆や交流の“場”として活用している方も多いようです。
 また、本書の随所で紹介してきた海外の日本図書館のさまざまな活動(註:日本美術カタログ収集プロジェクト(JAC)、日本専門家ワークショップ(日本研究司書研修・日本研究情報専門家研修)など。))にも、国際文化会館とその図書室が積極的に関与したり、立ち上げのきっかけとなったりしています。そういった意味では、資料の閲覧や提供にとどまらず、日本資料・日本情報を通して国内外の専門家同士が連携・協力やネットワーク作りをしていくため、資料と人、人と人とをつなぐという重要な役割を果たしている図書室と言えるのではないでしょうか。


《参考文献》

・国際文化会館.
http://www.i-house.or.jp/jp/.
・小出 いずみ, 栗田 淳子. 「日本研究と国際文化会館図書室のサービス」. 『情報の科学と技術』. 1990, 40(12), p. 863-869.
 http://ci.nii.ac.jp/lognavi?name=nels&lang=jp&type=pdf&id=ART0003217800.
・「図書室の活動」. 『国際文化会館50年の歩み』(増補改訂版). 国際文化会館. 2003, p.166-187.
 >>国際文化会館図書室とそのライブラリアンたちの活動の経緯が時系列に沿って詳しく述べられています。<<
・加藤郷子. 「小さな図書館の大きな力」. 『国際文化会館会報』. 2005, 16(2), p.1-6.
・林理恵. 「財団法人国際文化会館図書室の紹介」. 『びぶろす』. 2010, 48.
 http://www.ndl.go.jp/jp/publication/biblos/2010/05/02.html.
・林理恵. 「国際文化会館図書室のミッションステートメントについて」. 『専門図書館』. 2009, 235, p.33-36.

【関連する記事】
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2013年03月02日

〈再録〉電子ブックトレンド講演会@徳島大学「『本棚の中のニッポン』:大学の研究・学習環境を”世界と日本”から考える」


電子ブックトレンド講演会「ディスプレイの中のニッポン:ライブラリーを通してつながる世界と日本」
日時:2012年12月20日(木) 16:30ごろから
場所:徳島大学附属図書館
URL: http://www.lib.tokushima-u.ac.jp/pub/ebook/index.html

演題:「『本棚の中のニッポン』:大学の研究・学習環境を”世界と日本”から考える」

・当日配付資料(web公開版)
 http://www.lib.tokushima-u.ac.jp/m-mag/files/096/ebook03.pdf
・講演会ビデオ
 http://www.lib.tokushima-u.ac.jp/pub/ebook/index.html
・「電子ブックトレンド講演会(その2)を開催しました」(メールマガジン「すだち」No.96)
 http://www.lib.tokushima-u.ac.jp/m-mag/back/096/96-2.html
・アンケート結果
 http://www.lib.tokushima-u.ac.jp/m-mag/files/096/ebook07.pdf

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【導入】

 私は、国際日本文化研究センター図書館の司書です。
 過去にハーバード大学イェンチン図書館で長期研修として滞在していた経験があります。また、海外の日本図書館とその周辺を調査し、その成果を『本棚の中のニッポン』という著書にまとめ出版しました。
 それを踏まえて、今日は、「『本棚の中のニッポン』:大学の研究・学習環境を”世界と日本”から考える」という題でお話しさせていただきます。

 (国際日本文化研究センターとは、については省略)
 (『本棚の中のニッポン』とは、については省略)
 (「海外の日本図書館」をとりまく世界、については省略)

 以上のようなことを踏まえ、今日の本題である「大学の研究・学習環境を”世界と日本”から考え」てみたいと思います。

スライド17.JPG

 3つのキーワードを用意しました。
 「場所」「人」「デジタル」です。

【「場所」】

 1つめの「場所」について、いま日本の大学図書館で話題となっている「ラーニング・コモンズ」について考えてみます。
 私がハーバードに滞在しアメリカ各地の大学図書館を見学してまわっていたころ、ちょうど、University of Massachusetts Amherst(マサチューセッツ大学アマースト校、以下 UMass Amherst)のラーニング・コモンズが成功をおさめ話題になっていました。

スライド19.JPG

 UMassのラーニング・コモンズは代表的な成功例として、日本でも当初から多く紹介されていました。私もその当時、実際にこのラーニング・コモンズを見学に訪れましたが、たくさんの学生たちが夜遅くまで滞在していて、パソコンを使ったり、テーブルやホワイトボードを囲んで話し合ったり、とても有効に活用され、大人気でした。確かにUMassのような大学の学習環境整備には効果的だったのだろうと思います。
 一方、私が滞在していたハーバード大学はどうだったかといいますと、このUMassが持っていたようなラーニング・コモンズはありませんでした。学部生用図書館は、24時間開いていたりカフェが併設されていたりと、長時間学習に対応はしていましたが、いわゆる”ラーニング・コモンズ”と呼べるものではありません。ハーバード大学と言えば名門校として世界的にも有名なはずですが、いまでも”ラーニング・コモンズ”と呼べる学習環境は整備されていないと思います。
 ですが、だからといって、UMass Amherstのほうが優れていて、ハーバードのほうが遅れている、ということではないと思います。なぜなら、両大学それぞれの周辺の環境や学生の生活が大きくちがうからです。現地を実際に訪れ、図書館だけでなく大学全体やキャンパスの周辺を見てみると、そのことがよくわかります。

 例えば、UMass Amherstは、
・学部学生が多い。
・学部学生の多くはキャンパス内の寮で生活している。
・学内での学生の居場所といえば、寮、庭、フードコート、大食堂、図書館くらい。
・キャンパスの周囲には広々とした原っぱ。
・学生たちは基本的に車やバスで移動する。
・キャンパスからバスで10分ほど離れたところに、Amherstの町のメインストリートがある。全長1キロ程度で、カフェやレストランが数軒あるが、たくさんの学生たちの居場所としての受け皿にはならなさそう。
 というようなところでした。
 このような場所だと、落ち着いて勉強するために長時間滞在できる場所は、寮の自室か、図書館くらいしかないのではないか、と思います。そのようなところに、長時間滞在を前提として設計されたラーニング・コモンズが設置されたわけですから、その成功は約束されていたようなものではないでしょうか。むしろ、それができる前はこの学生たちはどこにいたんだろう、と思います。
 一方、ハーバード大学の場合は、
・キャンパスはケンブリッジ市の中心街にあり、周囲にカフェや公共スペースが多数ある。
・図書・自転車で移動できる。
・大学院生が多い(研究室等があると思われる)
・学内にも共有スペースが多い。
 というところでした。
 ハーバードの学内のあちこちには、オープンな場所、例えば建物内のフロアやロビーの一角、広めの部屋などがあり、”共有スペース”として活用されていました。テーブルと椅子が並んでいたり、ソファが据えられていたりして、みな通りがかってはちょっと座っていったり、また去っていったりする。本を読んでいる人もいれば、軽食をとる人もいるし、友達としゃべったり、グループ学習に取り組んだりしている。たまたま先生が通りがかれば、論文の相談やディスカッションが始まったりもする。
 このような”居場所”がすでに学内に散在していて、有効に活用されている、キャンパス全体がゼミ室のようになっているところでは、確かに、”ラーニング・コモンズ”と呼ばれるような施設があらためて設置されていなくても、困ることはないのだろう、と思いました。

 このように、「場所」を考えるのであれば、図書館だけを見て、図書館にラーニング・コモンズがいるかいらないかだけを考えていても、あまり意味がないのではないかと思います。キャンパス全体、その周囲、学生たちの生活・学習環境をトータルで考えるべきでしょう。
 例えば京都大学は、キャンパス周辺にたくさんの喫茶店などがあり、下宿している学生が多く、自転車が主要な移動手段です。そのような大学には、そのような大学にふさわしい(または、不足しているところを補うような)学習環境の整備の仕方があるのではないかと思います。
 徳島大学についても、私は今日来たばかりなのでわからないのですが、やはりその大学に合った考え方というものがあるのではないでしょうか。

【「人」】

 2つめのキーワード「人」については、ライブラリアンが行なう研究・学習サポートについて考えます。

スライド24.JPG

 ガイダンスやオリエンテーション、文献探索の講座などは、日本の大学図書館でも積極的に行なわれているでしょう。ハーバード大学でも同様です。滞在中に、いくつかのガイダンスやオリエンテーションを見学させていただきました。
 中でも印象に残ったのは、新入の大学院生向けに行なわれていた新学期オリエンテーションでした。これは毎年行なわれているもののようでしたが、実際に行ってみると、いまみなさんがいるこの会場くらいの広さで、80人くらいの学生が参加。そして、学内のさまざまな専門分野を持つライブラリアンが、壁際に30人ほどずらりと立っています。一般的なオリエンテーションや文献探索法の解説、これは日本でもよく見かけるような標準的なものでしたが、それらがひととおり終わったあと、会の最後に列席したライブラリアンがひとりづつ自己紹介を始めました。自分の専門分野はこれである、どの図書館のどのオフィスにいる、今日はこういう配付資料を持ってきた、というようなことをめいめいにアピールします。
 オリエンテーション自体はこれで終了し、多くの学生は帰っていきましたが、一部の学生は室内に残り、先ほど自己紹介したライブラリアンたちのもとに自分から歩み寄っていって、じかに話をし始めます。学生たちは、自分の研究分野に関係するライブラリアン、自分の助けになってくれそうなライブラリアンを自ら見つけて、自己紹介や研究テーマの説明をしたり、アドバイスを求めたりします。ライブラリアンのほうもそれに応じ、データベースや配付資料の案内をしたり、自分のオフィスやレファレンスデスクに来るようにすすめたりしていました。

 図書館やそこにいるライブラリアンは、人的サービス、研究・学習サポートを行なうためにさまざまな準備や工夫をしています。ユーザがサービスを受けやすいように図書館側が態勢を整えることももちろん重要ですが、ただなんでもかんでもお膳立てして、与えるだけ、世話をするだけ、というサービスのあり方はいかがなものでしょう。やはりユーザである学生のみなさんも、自分が必要としているもの、手に入れるべきものは、自分で動いて積極的に取りに行く、探しに行く、ということが重要なのではないでしょうか。先のオリエンテーションでも、終了後に黙って帰っていった学生たちと、残って自分からライブラリアンに自己紹介しに行った人たちとでは、かなり大きな差があるのではないかと思います。

【「デジタル」】

 最後に、3つめの「デジタル」としてe-resource、電子ジャーナルや電子書籍、データベースなどの利用環境について考えます。

 ここで紹介するのは2007年当時、私がハーバードに滞在していたときに見聞きした、アメリカの大学図書館におけるe-resourceやデジタルシステムによる利用環境の整備の様子です。5年前のものですが、現在でも日本ではまだ実現できていないような利用環境が多いと思います。

 ・人文系でも、e-resource(電子ジャーナル・電子書籍・データベース)をふんだんに使う。全文がオンラインで入手できて当然。
 ・電子書籍の“貸出”や端末の貸出サービス。
 ・講義で必読の文献は、図書館が電子版を購入する。電子版がなければ、図書館が権利者と交渉し、許諾を得て、図書館自ら電子化してサーバにあげる。
 ・論文データベースを検索して、必要な論文が電子ジャーナルになっていなければ、その場で文献複写をオンライン・オーダーできる。(その文献の所在が、学内か学外か国外は問わない。)
 ・オンライン・オーダーした論文のコピーは、メールの添付ファイル、専用サーバからのダウンロード等で受けとる。
 ・複数の大学でグループを組んでドキュメント・デリバリーの態勢を整え、提携校の利用者からのオンライン・オーダーを直接受けとる。

 このような、e-resourceが充分に提供され、デジタルシステムによる利用環境が整ったアメリカの大学図書館の中で、残念なことに「日本語のe-resource」だけが極端に少なく、整備されていない、という現実があります。

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 このグラフは、北米の東アジア図書館(中・日・韓)における図書・電子書籍・電子ジャーナルの所蔵数です。(2010年、CEAL統計から作成。)
 紙の図書については日本語の所蔵数もかなり多いのですが、電子書籍・電子ジャーナルの契約タイトル数になると、極端に少なく、ほぼ見えなくなってしまっていると言ってもいいほどです。
 これは決して、買おうとしていないから少ないわけではありません。そもそも日本語e-resourceはその数が少ないので、買えません。それだけでなく、使い勝手が不便で、値段も高く、コンソーシアム契約等も認められないことが多いようです。また、海外のライブラリアンが日本の出版者・データベース提供業者と交渉を試みても、海外とは契約できない、契約しようとしないこともあったようです。

スライド30.JPG

 そしてこれらの問題、数が少ない、使い勝手が不便、値段が高い、といったことは、すべて我々日本側のユーザ・図書館にとっても大きな問題であるはずです。
 こういった問題を解決するためには、そもそもの当事者である我々、日本のユーザこそが、要望の声を大きく上げる必要があるのではないかと思います。「人文系だから仕方ない」とか「著作権が」とかだけであきらめるのではなく、必要なものは必要と言うべきだと思います。

【まとめ】

 以上、3つのキーワード、「場所」「人」「デジタル」から、大学の研究・学習環境を考えてみました。いままでお話ししてきたエピソードをふまえ、”まとめ”として以下の2つのことをご提案したいと思います。

スライド32.JPG

 1つめは、「要望」。ほしい物を「ほしい」と言う・動く、ということです。
 例えば、e-resourceが足りていない、デジタルシステムによる利用環境が整備されていない、そのためにこういうことで困っている、こういうふうにしてほしい、そういったことについて要望の声を上げる、ということ。
 また、声を上げるだけでなく、具体的に自分自身で動いて獲得しに行くということ。ハーバードのオリエンテーションの話で紹介した学生たちのように、必要なもの、入手しなければならない情報があるのなら、与えられ整備されるのを待つだけではなくて、自ら積極的に近づいていくこと。
 必要な物は必要、ほしい物はほしいと言い、自らも動くことが重要ではないかと思います。

 2つめは、「全体設計」。問題をとりまく世界全体を考える、ということです。
 図書館の問題やトピックを考えるのに、図書館だけを見ていても、大学のことだけを考えていても、有効な解決にはならないのではないかと思います。ラーニング・コモンズの件で考えたように、ラーニング・コモンズを持つべきか否か、どう作るべきかなどは、図書館の中だけの問題ではない。大学全体のスペースの有無や使われ方の実態、学生たちの学習や生活のスタイル、キャンパス周辺の街・土地柄との関係の中で、全体の問題として考える必要があるのではないか、ということ。
 またe-resourceの問題も、単にいまここで目の前にあるひとつの資料が電子化されているかどうか、いまほしい電子書籍が手に入るかどうか、が問題なのではなくて、研究活動・学習活動全体の流れの中でどのような利用環境が整備されるべきか、ということ。さらには、日本製e-resourceの利用は日本のユーザの問題だけではない。海外の日本図書館をとりまく世界の中に置いて考えてみれば、日本が自分自身を世界にどのようにアピールし、存在感を示していけるか、という問題にもつながっていくということ。

 まとめとして挙げた2点・「要望」「全体設計」は、どちらも実に抽象的な、今日のテーマにはそぐわないものかもしれません。
 ですが、現時点で注目されている重要なトピック、例えばラーニング・コモンズや電子書籍などの問題を具体的に考え、解決したとしても、それ”だけ”ですべてが、大学の研究・学習環境のあらゆる問題が解決できるわけではありません。これから数年後・10数年後には、ラーニング・コモンズや電子書籍にかわる新しい問題・トピック=「次の”何か”」がまた持ち上がってくるでしょう。そしてその「次の”何か”」の”種”は、おそらくいま現在どこかに存在しているのでしょう。
 大学の研究・学習環境の整備は、いま現在だけの問題ではなく、これからも継続的に取り組まれていかなければならない問題ですし、今後も新しい問題・トピックが生まれつづけていくことでしょう。その中にあっておさえておくべき重要なポイント、それが、まとめとして挙げた「要望」「全体設計」の2点ではないか。そのように考えています。

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2013年01月20日

〈イベント情報〉 2013/1/28(月) 日本出版学会 関西部会「海外の日本研究とデジタル環境」

  
 日本出版学会関西部会@大阪で、発表させていただきます。
 
日本出版学会 2012年度第5回(通算第77回) 関西部会
「海外の日本研究とデジタル環境」
日時: 2013年1月28日(月) 18:30-20:30
場所: 関西学院大学大阪梅田キャンパス 1402教室
URL: http://www.shuppan.jp/yotei/490-2013128.html

 『本棚の中のニッポン』の中でもe-resourceの章にまつわるあたりに焦点をあてて扱う感じになります。でも、がっつりe-resourceっていう感じでもないのでその点はご容赦ください。
 場所の広さと人数が読めないので難しいのですが、できそうだったら当日、カンタンなワークショップの時間も即興で取り入れられたらな、と思っています。

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2012年11月05日

〈feedback〉Q.日本のe-resourceで何が一番利用されているのか。それはなぜか。

Q.
 日本のe-resourceで何が一番利用されているのか。それはなぜか。(匿名希望)

A.
 本書第9章「アクセスされるニッポン : e-resource」でも紹介していますが、JapanKnowledgeがもっとも広く普及しているのではないかと思います。

 JapanKnowledge
 http://www.japanknowledge.com/

 なぜか、について、その理由はいくつか考えられると思います。以下、あくまで私見ですが、まずひとつは「積極的に売り込まれていて、契約しやすい」。JapanKnowledgeは早い時期から海外の図書館にも積極的に売り込まれていましたし、海外の実情に合わせて契約しやすくなるような工夫や対応もされています。ネットアドバンス社の方もしきりに海外に出向いて、効果的な利用方法についてのプレゼンやワークショップなども行なっているようです。(本書参照)
 それから「収録されているデータベースの種類・分野が幅広い」ということも挙げられます。海外での日本研究は、ひとつの大学の中でそれほどたくさんの教員・学生がいるわけではないものの、それぞれが取り組んでいる分野は人文系・社会系など実にさまざまです。ひとつふたつの限定的なデータベースだけが使えたとしてもそれではまかなうことはできず、幅広い分野の豊富な選択肢が必要になってきます。その点、JapanKnowledgeはそれひとつ契約するだけで、アクセス数は少なかったとしても、さまざまな種類のデータベースにできます。
 そして、これはネガティブな話になってしまうのですが、「この他に契約できるものが少ない」ということも理由のひとつかと思います。

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2012年10月02日

〈feedback〉大図研全国@京都「『本棚の中のニッポン』で伝えきれなかった・・・」でいただいた感想・コメント


・海外のビックディールに批判はあるが、日本の学会・出版社は個々に提供しすぎていて購入するのにかなり不便。ある程度まとめて商品化するのも必要。
・日本発の電子資料を増やすためには国策として日本政府による支援が必要ではないかと思います。(もっとも現在の日本の財政状況では財政的支援は望めないかもしれませんが)(今野創祐さん)
・大学出版会の役割が重要だと思う。欧米に比べて出版数が少ない。
・データベースの買い切りオプションがほしい。
・日本資料のプレゼンスの低下は資料の手にはいらなさもあるが、不景気や、相対的に中国・韓国への興味が高まったからという要因の影響も大きいのでは。(パンダの人さん)

・『本棚の中のニッポン』のeBookは出ていないのでしょうか?
・電子書籍版は作られないのですか。最近は専門書も冊子で買うのがはばかられるので、ぜひ積極的に。(渡邊伸彦さん)

・海外の沖縄研究というものがある。ハワイ大学で沖縄学を研究している研究者たちは、先行研究の参考文献がなくて困っている、ときいた。琉球大学ではBIDOMS(沖縄関係文献情報データベース http://manwe.lib.u-ryukyu.ac.jp/bidoms/)というデータベースを公開しているが、それが海外の学生のためでもある。(nekonotaiyakiさん)
・奈良女子大学附属図書館では画像データベースを公開している。奈良地域関連の資料について英語ページも作成している。海外からも利用してほしい。
・意外と日本にない貴重な資料が海外の博物館等に所蔵されていたりして、それをもとにした成果が英語で発表されてりしています。

・日本の人も英語で日本研究すると世界が拡がりそう。
・我々が「橋」として活動しようとするときに、英語での発信をすすめたりあるいはサポートしたりという活動も必要。日本語で書かれたゆうようなブログやツイートを英語で発信しなおすようなプロジェクト、など。(川瀬直人さん)
・海外研修で発信・参加する大切さがよくわかりました。
・海外からの司書研修の発表会に参加して、非常に楽しかった。「日本専門家」という言葉をきいて、そのことを思い出し、納得した。日本文学の翻訳事業の廃止などは残念だが、これからもういちど参加してみたい。
・Google BooksでのJapanの登場頻度が、第2次世界大戦時とバブル経済の時とで同じことに興味がわいた。(siunmaruさん)
・具体的な手段と、Google BooksにおけるJapanの登場頻度に関連性はあるのか。

・大学図書館でILLを担当しているが、思っていたよりも頻繁に海外からILL依頼が来る。支払方法の問題などでなかなか融通がきかせにくいが、できるだけ応えていきたいと思った。(Rさん)
・ILLで申し込みされたらタダで送ってしまうが、受付ポリシーがあるわけではなく滅多に依頼されない。(Rangdaさん)
・海外からの飛び込みのILLに柔軟に対応したい。が、支払方法がわからなくて困る。
・先日海外の友人から、国内大学図書館へのILLを依頼したいがハードルが高くて困っている、という相談を受けたところだった。海外ILLへのハードルがもっと下がるとよい。応援・手伝いをしたい。
・日本語のできる卒業生が海外から申し込んできたときに支払方法に困った。円で正確な金額の支払をしてもらおうとするととてもコストがすごくかかってしまうため、結局他館にまわしてしまい、残念だった。
・韓国の図書館員に、国際郵便では遅すぎる、という話をきいた。特に海外ではe-DDSが普及していると思うので、それを柔軟に行なえるような著作権対応も必要。
・ILL担当として興味深かった。海外から依頼があった際に、依頼者に負担がかかってしまい、この資料がリポジトリ・OAであればと思う。
・国内のILL対応で手いっぱいで、海外ILLはおそれおおい。
・GIFの話はもう少し詳しく聞きたい。(古賀崇さん)

・一人でアクションを起こすのは難しい。紹介された海外ILLグループやSNSを活用したコミュニティなど、まずは活動母体のようなものを作ってはどうか。(井上昌彦さん)

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